動物は必ず答えてくれる
でも、果たしてどんな動物の言葉でも受け取ることはできるのだろうか?前田さんに尋ねたところ、人と気持ちが通じ合っている動物であればどんな動物でも答えてくれるのだという。
「話したくないんだなって子は何人かいましたけど、そういう時は聞き方を変えていくんですね。例えば、『黙ってるけどどうして?私のことが嫌?他の人だったら話してくれる?』『ママからこういう質問を預かってるんだけど、そのことで言いたくないことがあるの?』という風に。質問を少しずつ少しずつ変えていくことで、その子の気持ちが理解できるんです。」
答えてくれませんでした、というのは、アニマルコミュニケーターとしての力不足なのだと前田さんは話す。
行動学では分からないこと
▲イベントに出している手作りの石鹸。売上は、、東北浪江で保護活動を行う赤間徹さんと横浜にある猫カフェミーシスさんに年に3回寄付しているそう。
前田さんのセッションに来られるお客さんは約6割がご紹介だという。悩みは本当にさまざまだが、特に多いのはペットロス、問題行動、そして闘病中の動物の気持ちを知りたいというご相談だそう。
猫の場合、多頭飼いに関するご相談も非常に多い。
以前行ったミニセッションでのこと。ご依頼の飼い主さんは、もともと「チルクム」ちゃんという三毛猫を飼っていたが、1匹では寂しいだろうと「チンク」くんという茶白の猫を迎えたという。もともとチルクムちゃんがいたお家に後からやってきたチンクくん。当初から特別仲良くはなかったそうだが、一緒のお部屋にいることはできたとか。でも、チンクくんが2週間ほど入院することになり家に戻って以来、とてつもない険悪ムードになってしまったらしく。。。「どうしてそうなってしまったのか」という相談だった。
前田さんがチンクくんにその理由を尋ねると意外な答えが返ってきたという。「最初、お互いカチンときたきっかけは、名前(名前の響き)なんだ。自分が呼ばれたのかと思って行ったら、あちらも自分のことだと思って来るんだよ。」と。どうやら、チルクムとチンクという似た名前の響きが、チンクくんにとっては気に食わなかった模様。
そしてこう続けた。「でもね、最初は仲良くしたいと思っていて、名前を呼ばれてお互い勘違いしてしまっても気にしないようにして近寄ってたんだ。でも、あちらは、僕の態度がなれなれしくて生意気だと思ったみたいで。そこからだんだんそういう雰囲気になっちゃったんだよ。もともと気に入らなかった相手がいなくなって、あちらがせいせいしていたところに、他の人や動物の匂いをつけた僕が帰ってきたものだから、もう我慢ならなくなったんじゃないかな。」
前田さんは、まず飼い主さんに名前を変えるように伝え、そして先住猫のチルクムさんをたてるよう伝えたところ、あんなに険悪だったのが嘘のように喧嘩しなくなったという。
これこそ、アニマルコミュニケーションでなければ知り得ないことだ。猫の行動学では決して分からない。
ペットから家族になる
どんな子供も親を思うのと同じで、どんな動物も飼い主さんのことを皆一途に思っているという。アニマルコミュニケーションを通じて「この子はこんなに私のことを愛してくれてたんだ」と分かると、飼い主さんの気持ちがとても豊かになるのだとか。
「ただ可愛い、いろいろお世話してあげなきゃいけない”ペット”から”家族”になるんですよ」と前田さんは言う。
ある乗馬クラブの調教師さんからのご依頼で馬とセッションをした時のこと。人気がでてきたその馬が疲れていないかと心配で、相談に来られたそう。するとその馬は「私は調教師さんにすごく感謝してる。私を同じ生き物として扱ってくれて優しくしてくれるから、私はやる気が出たの。こんな風にコミュニケーションしてくれてありがとう。」と言ったのだとか。
その言葉を聞いた調教師さんはボロボロと涙を流したという。
そしてこうも言ったそう。「自分はこの乗馬クラブにあと何年いれるのか分からないけど、あなたがずっと私を担当してくれると嬉しい。」と。
乗馬クラブでは、年をとった馬は処分されてしまうのだという。驚くことに、そのことをその馬はしっかり理解していたのだとか。
その後、その乗馬クラブではアニマルコミュニケーションの内容をかかりつけの獣医さんも含めて共有し、引退した馬が処分にならずにすむような仕組みを整えていきたいそう。
アニマルコミュニケーションの普及に力を入れていきたい
現在、前田さんは、横浜の猫カフェミーシスや犬複合施設WANCOTTでミニセッションを行っている。少しでも多くの人にアニマルコミュニケーションを知ってもらうため、セッションを受けたことのない方に優先的にお越しいただいているそう。
ミニセッションを受けた方からは、「動物に対して見方がすごく変わった」「ペットロスだったけれどすごく楽になった」などの声が寄せられているという。
「ペットロスの悩みはなかなか人に言えなかったりしますよね。その子にしか分からないことを、私のような全然知らない人から聞くと、”あぁ、姿形は亡くなってしまったけど、やっぱりあの子はいるんだ”というのが分かってすごく救われると思うんですよ。ペットロスが重篤化しなくなると思うんですよね。」
そんな前田さんが今後力を入れていきたいのは「アニマルコミュニケーションの普及」だという。
「広いところに電灯が2本ほどしかたっていない時、まだあたりは暗いですよね。でもその電灯が次々とたてばどんどん明るくなりますよね。それと同じように認知が広まってくると、まるでオセロがひっくり返っていくように、世間の皆さんの意識がどんどん変わっていくんです。
私が学校に行っていた10年前、周りの反応は『アニマルコミュニケーション?なにそれ?』という感じでした。でもここ4.5年でずいぶん認知度は上がってきたように思います。動物はこんなにも分かっているんだよ、動物の気持ちを知るとすごく幸せになるし楽になるんだよ、ということをもっとたくさんの方に知ってもらえるよう発信していけたらと思っています。」
「猫はここまで分かるはずがない」そんな思い込みを捨て、猫の本当の気持ちを知ることができたら、きっと今よりももっとそばにいる子のことが愛おしく感じられるはず。人間と動物が分かり合える時代は、そう遠くないのかもしれません。
取材協力:前田理子さん、猫カフェミーシス
- この記事を書いた人
守重美和
猫ねこ部編集室 編集&ライター保護猫団体の活動を仔細にお届けする「保護猫のわ」・飼い主さんと猫との幸せエピソードをお届けする「なないろ猫物語」の編集担当。
猫を通して「人」の姿にフォーカスした記事をお届けする猫メンタリーライターとして 猫好きシンガーソングライター・嘉門タツオさんへのインタビューをはじめ、街の看板猫、猫カフェ、猫が住める住宅からキャットフードメーカー、ペット防災の専門家、猫雑貨店、猫をモチーフにした漫画家さん、年間3000件ものTNRの不妊手術を行っている獣医に至るまで、半年間で約40名以上の猫と関わる方々に幅広く取材を重ねる。