うちは教習所だと思ってます
▲長野っ子のタイツくん。全身黒タイツ、つま先破れ
里親の条件として上記のように文字にしてしまうと、なんだか厳しく聞こえてしまうかもしれない。しかし多田さんは「いえ、うちは教習所だと思ってます。」と優しく笑う。
譲渡会などは日程が決まっており、日時の都合を家族で合わせたりする難しさがある。またいきなり譲渡会へ参加することに、ちょっとハードルが高いな、そう感じてしまう人もいるだろう。
「でもうちは店舗なので、里親希望の方に気軽にいつでもきてもらえる。そこが強みでもありますし。」
「1回の面接で決まってしまう譲渡会もあるので、そちらは運転免許でいうところの1発試験ですよね。でもうちのような猫カフェは教習所^^。」
猫と暮らす環境作りは迎え入れるまでの間に整えてもらえたら、と。そのためにも、こう工夫しては?など一緒に考えてくれる。
例えばご飯に関しても。「やっぱり長生きしてもらいたいので。猫は飼うのははじめてか、先住猫がいるなら何を食べているのかなどはお聞きしますね。若くして前の子を腎臓病で亡くした方には、食生活で気をつけることなどもお迎えするまでにお話しするんです。」
いろいろなことを教えてくれる。うちは教習所という多田さんの言葉、納得。
助けられなかった子猫への思い
お姉さまやご両親と家族経営をされているという猫カフェmfmf。
多田さんご自身の猫との出会いというと、いつ頃だったのだろうか。
「ちっちゃい頃から好きでした。でも飼い始めたのは、18才の頃。知人が拾った保護猫でした。」
当時保護猫という言葉はまだ一般的ではなかったというが、それが保護猫との生活のはじまり。
その後、これも運命か、一人暮らしをしていた家の前で、小さく泣いている子猫を発見。すぐに保護して、世話をしながら里親探しをした。そしてその時にはじめて里親探しの大変さを知ったという。
結局その子猫は両親が気に入ってくれ、引き取るという形で落ち着いたという。
「家族みんな猫が大好き^^。家族で、1匹でも多くの猫を幸せにしたいという思いです。」猫を可愛がり愛する、そんなあたたかいご家族の光景が目に浮かぶ。
しかし猫好きから、実際にこうしてお店を持ってしまうところまでくるとは。そこへ至ったきっかけは何かあるのだろうか。
「きっかけというのはやっぱりあって。過去に助けられなった子猫たちがいたんです。」それは知人が拾った子猫だそう。まだ乳飲み子。母猫が育児放棄をしてしまったという。
「でもその子たちを助けるにも、当時は知識がなかった。」
保護猫がまだ乳飲み子だった場合、その命を救うのは非常に難しいことだといわれる。「もう数日ミルクを飲めていない子たちだったので、もしかしたら今の私でも救えなかったかもしれないんですけど…。」生まれたての子猫の命を繋ぐのは本当に難しいこと。適切な環境とケアの方法を知っていたとしても助けられない命もある。
一晩、懸命に世話をした。それでも翌朝にはミルクを飲まなくなり、冷たくなってしまったという。
「今でも思います。あの時にもっと知識があればって。保温や低血糖を防ぐ方法にしても、もっと他にできることがあったんじゃないかって。」
あの時救えなかった小さな命。
「それを私たち家族はずっと後悔していて。その子たちのことがずっと心にあって…。」静かに語りながら多田さんの頬に涙が。あの時の子猫たちを思って、そしてあの時の自分を悔やんで。
「それで、この店があるんです。」うつむく気持ちを振り払うように、力強く答えてくれた。
乳飲み子へのこだわり
「乳飲み子の厳しさを分かっているからこそ、うちでも出来る限り受け入れたいんです。」
しかし猫カフェを経営しつつ、乳飲み子のお世話もするというのは非常に難しいのが現実。実際、猫カフェで乳飲み子も受け入れているお店は、地方にわずかにある程度でとても少ないとか。
夜中でも1~2時間ごとの授乳、細かな体温調整に排泄の手伝いなど寝る暇もない。「ミルクもちょっとした温度変化や、メーカーを変えただけでも下痢になってしまったり。ほんの些細なことが命に係わるんです。」
まったく気の抜けない、とても危うい乳飲み子。
乳飲み子を保護した場合は、どれだけ早くミルボラさんのもとへ届けられるかが命を救えるかどうかの分かれ道となるんだそう。
ミルボラさんとはミルクボランティアのこと。ミルクボランティアとは、保健所や動物愛護センターに収容された生後間もない子猫を、一時的に引き取り、離乳が完了する生後60日頃までのあいだ自宅で授乳をしてあげる人のこと。
自治体や民間の保護団体で募集を呼びかけてはいるものの、ミルボラさんの数自体がまだまだ少ない。
ミルボラさんが少ないという現実がある以上、猫カフェmfmfでは、乳飲み子を出来る限り受け入れていきたいという。
実際、取材時にも扉の向こうにタオルがかけられたケージが隔離されていた。中には、小さな小さな乳飲み子たちが、大切に慎重に保育されていた。
営業時間外はお姉さまや多田さんが自宅へ連れて帰り、夜中は睡眠もままならないとか。「大丈夫です。この子たちのためなら^^。」
思いを理解してもらい、信頼してもらうまでの苦労
2016年09月のオープンからもうすぐ3年。今は自慢のスタッフ猫や、たくさんの卒業猫、そしてあたたかいお客さまたちに愛される猫カフェへと成長した。
しかしオープン当初は「保護猫たちをレスキューする道筋を作るまでが、すごく大変でした。」と振り返る。
保護猫団体には本当にいろいろな考え方の人がいるという。「うちも含めてですが、我が強いといったらよくないのだけれど、みなさんこだわりを凄く持っていらっしゃる^^:。」と多田さん。
しかし仕方のないことだとも言う。「なぜなら、人のことが嫌いになっちゃう瞬間がどうしてもあるから。」
世の中には猫を捨てる人もいる、猫を傷つける人もいる。「人間の勝手さとか、そういうものが見えてきちゃうんで。」
保護猫団体の人たちに「保護猫のいるカフェをやりたい」と相談しても、はじめはなかなか受け入れてもらえなかったという。
しかし思いを伝え、理解してもらい、信頼関係を築いていったんだそう。「そこはやっぱり時間がかかりましたし、苦労しましたね。」
猫を助けたい、猫が好き、そんな純粋な気持ちだからこそ傷ついてしまう。そんな保護猫団体の関係者も多いのだろうか。
ここをパンドラの箱にしないように
「集団生活をしているから、ここで伝染病をだしては絶対にいけない。ここがパンドラの箱になるわけにはいかないんです。」
伝染病の検査や予防には、お金と時間をかけ、徹底して取り組んでいる。
「そこが保護猫カフェから猫を迎える、デメリットでもあるんですよね。いろんなところから保護された猫が一堂に集まっているので。」
例えば、同じ環境から5匹の兄弟猫がきた場合、全員に検便や血液検査を実施する。さらに薬を与えた場合は、薬が効いているかの検査も全員に行うのだそう。効いただろうという過信は、絶対にしない。検査や予防にお金と時間をかける、猫を救うにはこういった徹底が必要なのだ。
あたたかいお客さんに支えられて成長
さて、多田さんの口からデメリットという言葉がでたが、メリットというと?
「新入りの子だとおびえて隠れちゃうことも。1か月お店のどこにいるか、ご飯の時以外は分からないって子も。でもいろんなお客さまが出入りする環境だからこそ、少しずつ慣れていく。」
「常連さんの中には、そんなシャーシャーな子が好き、と言う方もいらっしゃって。おもちゃやおやつでいかに慣れさせるか、というありがたいお客さまたちで^^。」
そんなあたたかいお客さんの力によって、少しずつ人慣れをして、無事に卒業していく、そんな子も多いそう。
「やっぱり私たちスタッフは、投薬や爪切りなどお世話をするので嫌われやすくて^^:。だからスタッフ以外の、自由に甘えさせてくれて、楽しませてくれる人の存在がとても貴重です。」
「保護猫の知識のない普通のカップルが『わ~この子シャーシャーフーフー言ってる』って笑いながら遊んで慣らしてくれることもあるんですよ^^。」
そんなふうにたくさんのあたたかい人たちに触れている、いろんな猫仲間とも過ごしている、その経験こそが、保護猫カフェの猫たちのメリットだという。
ここから巣立ったたくさんの卒業猫ちゃんたち
この3年で「猫カフェmfmf」から巣立った卒業猫は、なんと170匹!卒業猫たちのポスターとカレンダーがあると見せてくれた。
「この子たちが生後ゼロ日から保護したミルクの子たちです。」
「この子は夜逃げで置いていかれちゃった子。」
「これが先ほどの秋田の廃線の11匹の子たちで。」
「この2匹は工事現場で生まれたんです。職人さんたちが見つけて。だから名前は”にっか”と”ぽっか”(笑)。」
「この子たちは糞尿にまみれた多頭崩壊の子たち。11匹、三重県からきて。人にも全然慣れてないというところからはじまったけど、みんないいおうちにいきました。」
指で追いながら説明してくれる多田さん、とっても嬉しそう。170匹のみんな、「猫カフェmfmf」にこられてよかったね。心から。
みんながおうちにいけるように
最後に、猫カフェmfmfの思いを聞いた。
「里親にはなれないという方にも、ここへ気軽に遊びにきていただけたらと思います^^。いろいろな人にきてもらい、その中で保護猫の存在を知る、入り口となれたら嬉しい。」
「みんながお家にいけるように。猫を迎え入れるという選択肢に保護猫もあるんだと、それが広まるといいですね。」
「お店としてやるべきことは、新しい子たちを助けていく。なおかつ同じような子たちが生まれないように啓蒙活動をしていく。個人では出来ることに限界があるので、お店として広くやっていきたいですね。」
取材終盤には、外出されていたオーナーであるお姉さまが帰っていらした。お姉さまを見つけた子たち、そわそわ嬉しそう。
▲こう見えてもそわそわ嬉しいんです。
猫を含めて大家族。そんなあたたかい空間が「猫カフェmfmf」。
猫カフェmfmf
電話:045-319-4373
住所:神奈川県横浜市中区港町2-9-4関内幸和ビル6F
営業時間:平日13:00-20:00 休日11:00-20:00
定休日:なし
最寄り駅:JR関内駅 京浜東北線関内駅北口徒歩1分/みなとみらい線馬車道駅徒歩8分
料金:
通常料金 1時間 フリードリンク付¥1500 延長10分(フリードリンク含む)¥200
2時間パック 平日限定2時間パック¥2300
3時間パック 平日限定3時間パック¥3300
公式サイト:http://catcafe-mfmf.com/index.html
- この記事を書いた人
ほりえかよこ
猫ねこ部編集室 ライター猫のお役立ち、猫との暮らすための記事など「ニャイフスタイル」記事担当。
猫と暮らすためのヒントや飼い主さんのお悩みに寄り添った記事などを楽しくお届けするほか、キャットインストラクター坂崎清歌さんや猫カフェへの取材も行う。
主婦の視点を生かし、「猫×ライフスタイル」により共感がわくアイデアづくりを目指している。