コンセプトに共感してもらうために~クラウドファンディングで資金集め
物件が決まったことで資金面で見直しが必要になる部分も増えた。
そこで、資金集めのツールとして使ったのが「クラウドファンディング」。
見ず知らずの人にお金を支援するためには”共感”を得ることが一番大切。安村さんのお店のコンセプトは、猫好きの方に共感してもらえる要素満載で、結果として270万円以上もの支援をいただいたそう。
「お金を集めるというよりは、コンセプトに共感していただくためのツールとして使わせていただいたのが正直なところ。」と安村さん。
たくさん支援の声をもらい、嬉しさと同時にプレッシャーも感じたとか。「本屋をつぶさないためには他の収入も得ながらまわしていかないと…」
そう思った安村さんはパラレルキャリアの道を選んだ。パラレルキャリアについての話はまたのちほど。。。
▲店内にはクラウドファンディング出資者の名前が彫られたボードがいくつもある
開業までの道のりは体力勝負
▲まるい。ひたすらまるい。
いよいよ、工務店も決まり、2017年1月にフルリノベーションの工事がスタート。
でも、ここで思わぬトラブルが発生。「シロアリがいた痕や雨漏りした痕があったんです…。」と安村さん。
傷んだ部分の補修工事をしなければならなくなり、当然追加の費用も発生。そこで少しでも経費を削るために、壁の塗装はDIYでやることにしたのだとか。
「初夏だったんですが、エアコンも当然入っていない状態で汗だくでしたね。夫婦揃って10kg痩せまして…。開店ダイエットだったって妻と今でもよく話しています(笑)今では完全にリバウンドしてますけど(苦笑)」
「当初オープンの3ケ月前には引き渡しを考えていたんですけど、結局工期が2か月遅れてしまって。1ヶ月で全部準備しなきゃいけなくなったんです。」あの店員猫4匹がお店に来たのも実はオープンのわずか6日前だったのだとか。
でも、会社から与えられた仕事をイヤイヤやるのとはわけが違った。「本当にやりたいことに向かっていたので、体力面以外での大変さはなかったですね。」そう話す安村さんの顔はとてもイキイキとしていた。
いよいよOPEN!~思わぬハプニング続出
2017年8月8日。いよいよ開店。
クラウドファンディングで出資してくださった方や、出資はしていないけれど記事を見て知ってくださっていた方、SNSで知ったという猫好きの方など、本当にたくさんの方がやって来られたそう。
「お酒好きな夫婦だとみんな知ってるんでお祝いにもたくさんお酒をいただいて。いまだに飲みきれないくらいのお酒のボトルが2階にあります。」と安村さんは笑う。
でも、予想外のトラブルはたくさんあったそうで…。
一番は棚がスカスカ問題。
「自分が理想とする本屋の3分の1くらいの出来で。平積みの本も全くなく、、、。オープン当初は棚の3分の2くらいしか埋まっていませんでしたね。」
当初は猫カフェだと思って来られた方もたくさんいたそうで…。予想外にドリンク作りに追われたり。
さらにはこんなハプニングも。
「古本の値札シールが届いたのはなんとオープン当日の朝。おつりも用意してなくて、100円玉と10円玉はなんとかかき集めたんですけど、50円玉のおつりがなくて…。急遽前の晩に、古本の値段で50円単位にしていたものを100円単位に変えたり(笑)」
他にもレシートにロゴがちゃんと印字されなかったり、急にWiFiがつながらなくなったり…。
忙しすぎてお客さんとどんな話をしたのかも覚えていないほど。オープンして一週間はそんなバタバタが続いたそう。
▲「これから猫を飼う人に伝えたい10のこと」の内容がパネルになって展示されている
ぞんざいに本を扱う人間よりよっぽど猫の方が本に優しい
オープン後、多くのメディアで取り上げられたことで、たくさんのお客さんが訪れるように。
でも、最近はマナーのなっていない方も多いらしく…。
「入ってこられるなり、本を一切見ないで『奥でお茶飲めるんですか?』と言われたり。1時間ひたすら写真だけ撮って、一切何も買わずに帰られる方もいましたね。トイレだけ使って帰るとか。」
そのたびに心が削られたという安村さん。今は、写真を撮る前にはお声がけするよう書いた貼り紙をして、写真を撮る場合は本のお買い物もお願いしているという。
本をぞんざいに扱うそんな人間たちより、猫たちはよっぽど本に優しいとか。
キャッツミャウブックスは古本も新刊も扱う本屋さん。当初猫のいるスペースにだけ古本を置いていたのだそう。というのも、本に囲まれた空間で猫たちがどんな振る舞いをするのかが分からなかったから。
でも、店員猫たちはみんな本に対して優しくて、爪とぎはもちろん一切いたずらをしなかったのだそう。
そんな本に優しい店員猫たちの様子を見て、今では猫のいるスペースにも新刊を置いているのだとか。
▲本の上に乗ることはあるけれど決していたずらはしない。猫好きのお客様からは、あえて店員さんが踏んだ本くださいと言われることもあるとか(笑)
猫が出てきそうな雰囲気をかぎつけて(笑)猫本探し
現在キャッツミャウブックスにある本は、2500タイトル3000冊ほど。すべての本のどこかには猫が出てくるのだとか。タイトルから分かりやすい猫本もあれば、読み進めないと分からない猫本なども…。
安村さん流猫本の探し方とは??
「本屋に行ったら、猫の出てきそうな雰囲気をかぎつけて(笑)、”猫”の文字が出てこないかバーっと探しますね。」
猫の出てきそうな雰囲気。いやいや、いきなりハイレベルw
▲至福の時間の鈴様
「〇〇編などと書かれていれば編者がいる。ということは、いろんなところから文章を引っ張ってきているので、猫が出てくる確率が格段に上がるんですよ。タイトルに出てこなくても全ページバーッて見ます。」
「猫の字には敏感ですよ。でも、出てきたー!って思ったら”描”って字だったりするときも(笑)」
猫本センサー恐るべし!”描”だったときのがっかり感を想像したら、もうなんだか泣けてくるようなw ぜひみなさんもご想像を^^
そんな安村さんに、万人受けではないけれど売れたら嬉しい一冊を聞いてみると。。。
安村さんが手にしたその本のタイトルは「奇怪動物百科」。猫ドコデスカー(笑)
「猫本なの?って思うかもしれないですけど猫出てくるんです。中世から近世にかけての文献上に出ている想像上の動物を集めたものなんですけど、『これ、猫なんじゃない?』みたいな変な動物も出てきます。こういう本を見てると、昔の歴史を違った観点で見れたりするんですね。違う視点から見た世界史のような本が好きなんです。」
猫本のことを語る安村さんは本当にイキイキとしていて、そんな話をもっともっと聞きたくなる。
この空間でしか分からない面白さ
安村さんのこだわりは棚の本の並びにも。
普通の本屋さんのように、例えば実用書・文庫・小説などとジャンル分けはされておらず、POPも見当たらない。
でもその棚に並んだタイトルの並びを見ると「こう来るかー!」という面白い発見が。
▲世界・地名・旅そんなタイトルが並ぶなか「ネコの亡命」。旅…ですね(笑)
▲こちらは先程の奇怪動物百科棚。動物に癒やされるといいながらも肉を食う^^なんとも深い…
▲魔猫、化け猫、最終的には妖怪…^^今日は化け猫でもつくりますか。
「絶対この本!と思って探しに来られる方より、何があるんだろう?とじっくりお探しに来られる方が多いんですね。そういう方が意外な本に出会って頂けるようなつくりにしています。」と安村さん。
▲この並びにさらっと差し込まれた「女の小説」が個人的にじわじわ。
「 この空間でこの本の並びを見ていただくとやっと面白さが伝わると思うんです。」だからこそあえて通販はやらないのだそう。
きっと猫好き本好きな方なら何時間でも眺めていられる気がする。そこに猫と安村さんの猫本トークが加われば、、、きっとまた次、また次と来たくなるんだろう。
良かったなと思うことばかりのパラレルキャリア
会社員としての仕事を続けながらキャッツミャウブックスの店主として働く安村さん。
さまざまなメディアから、パラレルキャリアなどと取り上げられることが多いそう。
「決してパラレルキャリアが素晴らしくて本屋を実現したのではなく、結果的にパラレルキャリアになっているだけ。」安村さんは少し困った顔をして話す。
「会社を辞めたくてしかたなかったけれど、計画が具体的になればなるほどお金が必要だから辞められないなと。新しい店員猫たちの命を預かったことも、会社員を続けている理由です。病気になったりしたときに安定した収入がなければ責任がもてないので…。」
平日は奥様が店に立ち、安村さんは仕事後帰ってきてから閉店までお店に。土日は安村さんもお店に立っているのだそう。
こうして書いてるだけでも、その生活の大変さが想像できるけれど、安村さんは至って明るくこう話す。
「定年ぐらいの歳になったらどうしようなんて不安があったけれど、それがなくなったのは本当に良かったと思います。明日お客さんに来ていただくにはどうすればいいかをずっと考え続けるのは、生活のハリにもなっていて良いことだらけです。」
「外に遊びに行く時間はなくなったけれど、そのぶん普段なら絶対にお会いできないような方が来てくださって、この空間で会話できるのはとても嬉しいことだなと。自分の伝えたいことをわざわざ取材に来ていただいて聞いていただけることも、こんなに素晴らしいことはないと思ってます。」
本当にしんどいときには休みをとって奥様にサポートしてもらっているのだとか。
「妻には本当に感謝しています。店に立っている時間は私より長いので、ストレスをかけさせてしまって申し訳ないなと。」
お互いの信頼関係がないと、なかなか誰もが真似できるようなことではないと思う。本当に羨ましいほど素敵な夫婦だ。
▲Tシャツのデザインになじみすぎた鈴^^
・・・とここまで書くと、もうずいぶん前から奥様にもお店の計画も話されていたんだろうな、と思ったのだけど。
実は、奥様に相談されたのはずいぶん計画が進んでからだったのだとか。失礼ながら、なかなかなチャレンジャーと思ってしまった(笑)
それでも優しく支えてくれた奥様は、本当に素晴らしくて愛に溢れた方だと思う。
コンセプトがぶれないように
”猫だけを助けたいのではなく、本の文化も助けたい”
売上の一部を保護猫活動に寄付するコンセプトにはこうした意図があるという。
「コンセプトに共感してくださったお客様が、同じ本を買うのであればキャッツミャウブックスさんでと、普段お読みになる冊数以上の本を買っていただくと、本の文化が繋がっていくのかなと思っています。」と安村さん。
多くのメディアに取り上げられることで、多くの方にお店の想いを知ってもらえたとか。
けれど、安村さんが目指しているのは「長く続けていくこと」。お客様に飽きられないようにするにはどうすればよいかをずっと考え続けているのだそう。
「長くお客様に支えていただくには、変わらないようにしなきゃいけないことと、変わっていかなきゃいけないことのバランスを考えてやっていくことが大切だと思っていて。」
「お客様からの期待を裏切らないようにしなきゃいけないなとすごく思っています。本好きな方が欲しいと思った本を手に入れられるような本屋にならなければいけないし、猫好きの方を悲しませないよう、猫たちが幸せに暮らしている姿を見せ続けていかなきゃいけない。猫好き本好きのすべての方に知ってもらえるまでは、頑張って続けていきたいと思います。」
見たこともない猫本を探しに是非一度足を運んでみては?
Cat’s Meow Books(キャッツミャウブックス)
電話:03-6326-3633
住所:東京都世田谷区若林1丁目6-15
営業時間:14:00~22:00(日曜・祝日~20:00頃)
定休日:火曜日
最寄り駅:東急世田谷線西太子堂駅より徒歩2分、東急田園都市線三軒茶屋駅より徒歩8分
公式Twitter:https://twitter.com/catsmeowbooks
- この記事を書いた人
守重美和
猫ねこ部編集室 編集&ライター保護猫団体の活動を仔細にお届けする「保護猫のわ」・飼い主さんと猫との幸せエピソードをお届けする「なないろ猫物語」の編集担当。
猫を通して「人」の姿にフォーカスした記事をお届けする猫メンタリーライターとして 猫好きシンガーソングライター・嘉門タツオさんへのインタビューをはじめ、街の看板猫、猫カフェ、猫が住める住宅からキャットフードメーカー、ペット防災の専門家、猫雑貨店、猫をモチーフした漫画家さん、年間3000件ものTNRの不妊手術を行っている獣医に至るまで、半年間で約40名以上の猫と関わる方々に幅広く取材を重ねる。