- キャットフードはあくまで猫のために作られたもので、人間用に作られたものではないんですよぉ。少し食べたくらいでは問題ないですが、食品基準も違いますし、人間の食品には使われない添加物などが使われている可能性があるので注意が必要ですよぉ。
最近では、「人間でも食べられる食材を使用」「ヒューマングレード」などと書かれたフードもあり、「キャットフードは人間でも食べられるの?」と疑問に思われる方もいるでしょう。
愛猫には、自分が食べても美味しいと感じるものをあげたいと思いますよね。
ただ、実際「人が食べても体に害はないの?」と心配になる方もいると思います。
結論から言うと、少し食べたくらいでは問題ありませんが、そもそも人間用に作られたものではないので、食べ続けるのはオススメできません。
今回は、人間にキャットフードをオススメできない理由、食品衛生法とペットフード安全法の違いについて詳しく説明します!
食品衛生法とペットフード安全法の違い
日本では、人間の食べる食品は「食品衛生法」という法律で厳しく規制されています。
一方、ペットフードは人間の食品と同じ扱いではなく、「ペットフード安全法」という法律により規制されています。
しかし、ペットフード安全法は食品衛生法に比べて基準が緩く、以下のような問題点があります。
- 基準が定められていない農薬等が残留していても販売禁止にならない
- 人間の食品には使用されていない添加物が認められている
- 原材料を加工する過程で使用した添加物は記載義務がない
- 原産国は最終加工工程を完了した国(原材料生産地が分からない)
基準が定められていない農薬等が残留していても販売禁止にならない
食品衛生法、ペットフード安全法では、いずれも食品(フード)中の残留農薬の含有量基準を定めていますが、規制方法に大きな違いがあります。
- 食品衛生法・・・ポジティブリスト制(原則すべてを禁止した上で、認められるもののみをリスト化(リストにないものは禁止))
- ペットフード安全法・・・ネガティブリスト制(原則規制がない状態で、規制するもののみをリスト化(リストにないものは規制なし))
食品衛生法では、残留基準が定められていないものでも一定量(0.01ppm)を超えて農薬等が残留する食品は、原則販売が禁止されています。
一方、ペットフード安全法では、残留基準が定められていないものに関しては、農薬等が残留していても基本的に販売禁止等の規制がありません。
以下の表は、ペットフード安全法の成分規格で定められた残留農薬の上限値です。
農薬 | 定める量(μg/g) |
グリホサート | 15 |
クロルピリホスメチル | 10 |
ピリミホスメチル | 2 |
マラチオン | 10 |
メタミドホス | 0.2 |
現在のペットフード安全法では、このリストに載っていない農薬に関しては、もし残留していたとしても普通に販売することができるのです。
人間の食品には使用されていない添加物が認められている
以下の表は、ペットフード安全法の成分規格で定められた食品添加物の上限値です。
食品添加物 | 定める量(μg/g) |
エトキシキン・BHA・BHT | 150(合計量) 犬用にあたっては、エトキシキン75以下 |
亜硝酸ナトリウム | 100 |
エトキシキン
酸化防止剤として添加されますが、海外では抗酸化剤や殺菌剤として使用されており、発がん性が指摘されています。
日本では毒性が強いため、人間用の食品に使うことは禁じられていますが、ペットフードでは使用を認められています。
人間の食材への許容残留量基準値が0.05ppm~7ppm=0.05mg~7mg/kgであるのに対し、犬用フードの上限値は75μg/g=75mg/kgです。
人間に比べて非常に高い基準値であることが分かります。
BHA・BHT
BHTは酸化防止剤として使用される添加物で、アメリカでは乳幼児用食品への使用が禁じられています。日本でも現在ではほとんど使用されていませんが、稀に使用しているフードもあります。
BHTの代わりに使用されるようになったBHAは発がん性が疑われていますが、人間用食品・ペットフードともに使用は禁止されていません。人間のBHAの1日許容摂取量は0.5mg/kg(体重)と定められており、これは食べ続けても安全上問題がないとされる量を十分下回る量とされています。
一方、ペットフードのBHA+BHT上限値は150mg/kg(フード)です。
ペットフードの基準は、摂取量ではなく含有量となるため、単純比較はできませんが、発がん性の疑われる酸化防止剤の使用が認められているのが現状です。
亜硝酸ナトリウム
発色剤として使用される添加物で、人間の食品ではハムやソーセージの黒ずみ防止のために多く使われています。
毒性が強く、発がん性も疑われており、人間の食品では使用対象、使用量が規制されています。
以下、使用が認められている人間の食品と、その使用上限値です。
- 食肉製品、鯨肉ベーコン、魚肉ソーセージ・・・700mg/kg
- 魚肉ハム・・・50mg/kg
- いくら、すじこ、たらこ・・・5mg/kg
一方、ペットフードの上限値は100mg/kgです。人間に比べて高い基準値であることが分かります。
原材料を加工する過程で使用した添加物は記載義務がない
ペットフード安全法では、使用した添加物を記載する決まりになっていますが、原材料に含まれる添加物の表示までは義務づけられていません。
前述のようにリストにない添加物は規制もないため、極端に言えば「腐った粗悪な肉」を規制対象ではない殺菌剤で消毒して使っていたとしても分からないということになってしまいます。あくまで極端な話ですが、そういった可能性もあると考えると非常に怖いですね。
原産国は最終加工工程を完了した国(原材料生産地が分からない)
ペットフード安全法では、「原産国=最終加工工程(パッケージングは含まない)を行った国」としています。ドライフードならばフードの成形を行った国、ウェットフードではレトルト加熱殺菌工程を行った国となります。
つまり、例え中国産の原材料を使用していたとしても、日本で最終加工を行えば原産国は「日本」となるわけです。
ペットフード安全法は、2007年アメリカで起きた中国産原材料のメラミン問題(※)を機にできた法律です。しかし、現在の表示方法では、原材料生産地が分からず根本的な解決策となっていません。
※アメリカで犬猫の大規模な健康被害が発生した事件。中国産原材料に有害物質がメラミンが混入していたことが原因とされる。
- キャットフードは人間の食品と同じものとしては扱われないんですよぉ。ペットフード安全法で規制があるにはあるんですけど、人間の食品に比べると基準がゆるいところが多いんですねぇ。
- 日本じゃ、キャットフードって「雑貨」扱いって聞いたことありますっ。だからスーパーでも食品コーナーには並んでないんですね。
人間の食品に比べると、添加物の基準が特に甘いように思いますっ。
人間にキャットフードをオススメできない理由
果たして「キャットフードを人間が食べてよいか」ですが、人間がキャットフードを食べることはオススメできません。
もちろん食べようと思えば食べられますが、そもそも人間が食べることを前提に作られてはいません。
人間にキャットフードをオススメできない理由は以下の通りです。
- 人間の食品基準で作られていない
- 食用に適さない原材料が使われていることがある
- 人間と猫では必要な栄養素が違う
人間の食品基準で作られていない
前述のように、ペットフードは人間の食品基準とは異なる基準で製造されています。
人間には使用できない添加物が認められているほか、有害になる可能性のある添加物や農薬の残留等がある可能性も否定できません。
また、危険性の高い原材料が使われていても、パッケージを見ただけでは分かりません。
人間が少し食べたくらいでは害になることはありませんが、そもそも人用に作られていないため、健康に全く問題が出ないとは言い切れないでしょう。
食用に適さない原材料が使われていることがある
キャットフードには人間の食用に適さない原材料が使われていることがあります。
以下の肉類は、AAFCO(※1)の定義上で危険性はありませんが、全てのペットフードメーカーがこの定義に沿って製造しているとは限りません。なかには品質に問題のある肉を使って製造されているフードがある可能性もゼロではないため、人間が食べるのはオススメできません。
- 肉副産物
- ミートミール
- 家禽ミール
※1 AAFCO・・・米国飼料検査官協会
肉副産物
AAFCOで定義する肉副産物とは以下の通りです。
- 哺乳動物の毛・角・歯・蹄・肉を除いた部位
- 内臓や骨を含む
- 油脂分を搾り取る前の清潔な部位
ミートミール
AAFCOで定義するミートミールとは、以下の通りです。
- 種類が限定されていないさまざまな哺乳動物をレンダリング(※2)した乾燥肉
- 血液・毛・蹄・角・皮・糞尿・胃・第一胃の内容物は除く
※2 レンダリング・・・脂肪を溶かして油脂を抽出する
家禽ミール
AAFCOで定義する家禽ミールとは、以下の通りです。
- 鳥類の清潔な肉と皮をレンダリングした乾燥肉
- 骨は含まれている場合がある
- 羽毛・頭・足・内蔵は含まない
人間と猫では必要な栄養素が違う
キャットフードは、あくまで猫に必要な栄養をとれるよう考えて作られたものであって、人間に必要な栄養バランスにはなっていません。
猫はたんぱく質を多く必要としますが、人間は炭水化物を多く必要としており、そもそも必要な栄養素が異なります。
人間がキャットフードを主食にするなどということはないと思いますが、猫にとっては栄養バランスの整った食事であっても、人間には栄養不足になる可能性があります。
- 人間がちょっとキャットフードを味見するくらいなら問題はないですけど、そもそも人間用に作られたものじゃないってことは知っておいてほしいですねぇ。いくら「人間でも食べられる素材」と書かれていても、だからといって人間が食べてもいいものってわけじゃないんですよぉ。
- 人間が普通は食べないものもキャットフードには入っていることもありますからねっ。栄養バランスも全然違いますし、なにより味が薄くて物足りないはずですっ!
よくある質問
ヒューマングレードとは「人間が食べることのできる品質」という意味ですが、明確な定義はありません。
そもそもキャットフードは猫が食べるために作られたものであって、決して人間用には作られていません。
ヒューマングレードというのは「材料において人間が食べることのできるレベルのもの」という意味であり人間が食べても大丈夫な加工がされているわけでありません。
まとめ
- 人間用食品とペットフードでは規制する法律が違う
- ペットフードの基準は人間用食品の基準に比べて緩い
- 規制のない農薬が残留していても販売禁止にならない
- 人間の食品には使用されない添加物が認められている
- 原材料を加工する過程で使用した添加物は記載義務がない
- 原産国は最終加工工程を完了した国(原材料生産地が分からない)
- キャットフードは人間用に作られていないため食べるのはオススメできない
- 食用に適さない原材料が使用されていることがある
- 人間と猫では必要な栄養が違う
- この記事を書いた人
守重美和
猫ねこ部編集室 編集&ライター保護猫団体の活動を仔細にお届けする「保護猫のわ」・飼い主さんと猫との幸せエピソードをお届けする「なないろ猫物語」の編集担当。
猫を通して「人」の姿にフォーカスした記事をお届けする猫メンタリーライターとして 猫好きシンガーソングライター・嘉門タツオさんへのインタビューをはじめ、街の看板猫、猫カフェ、猫が住める住宅からキャットフードメーカー、ペット防災の専門家、猫雑貨店、猫をモチーフにした漫画家さん、年間3000件ものTNRの不妊手術を行っている獣医に至るまで、半年間で約40名以上の猫と関わる方々に幅広く取材を重ねる。
- 【監修】獣医師・YICビジネスアート専門学校ペット科講師
平松育子京都市生まれ
山口大学農学部獣医学科(現 山口大学共同獣医学部)卒業/2006年3月-2023年3月ふくふく動物病院院長を務める/現在は勤務獣医師として自分の可能性にチャレンジ中