- 「スルメを猫に与えると腰が抜ける」なんてよく言いますが、しっかり加熱してあげれば大丈夫ですよぉ。ただし、与えすぎは禁物!おやつで時々あげる程度にしてくださいねぇ。胃の中で膨らむので細かくするのもポイントですよぉ。
猫ねこ部ディレクターとして猫に関する様々な情報をご提供するなか、特に猫の健康に直結する食事に関する知識を深めるため、ペットフード販売士資格を取得。様々な種類の猫や状況などに合うフードの提案、情報発信を行います。
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ペットフード販売士:一般社団法人ペットフード協会が認定している認定資格で、ペットフードに関する様々な知識及び情報を習得したペットフードの専門家です。ペットの適正な発育と健康維持・増進に寄与します。
私たちがスルメを食べていると、においにつられた猫が欲しがることもありますよね。
でも「スルメを与えると腰が抜ける」なんて話も聞いたことがあると思います。
愛猫のことを考えると「本当にあげて大丈夫なの?」と心配になりますよね。。。
そこで今回は、猫にスルメをあげていいのかについて徹底解説!
「腰が抜ける」と言われる理由、スルメの成分、猫に与える影響や与える時の注意点について詳しく説明します。
知らぬ間に食べてしまったときの対処法についても紹介しますので、是非参考にしてくださいね。
スルメはイカの内臓を取り出し乾燥させた加工品
スルメとは、イカの内臓を取り除いて天日干しや機械などで乾燥させた加工食品のことです。
アタリメと呼ばれることもありますが、スルメとアタリメは同じものです。
イカにはとても多くの種類がありますが、スルメの原料となるのは主にこのようなイカです。
- スルメイカ
- ケンサキイカ
- ヤリイカ
- ブドウイカ
- トビイカ
- アオリイカ
- モンゴウイカ
混同しがちですが、ここで出てきた「スルメイカ」と「スルメ」は別物ですので注意してくださいね。
- スルメイカ=イカの一種
- スルメ=イカを加工して乾燥させた乾物
「猫にスルメをあげると腰が抜ける」と言われる理由
「猫にスルメをあげると腰が抜ける」と昔からよく言われてます。
しかし、スルメは猫にとって本当に危険な食べ物なのでしょうか?
結論から言うと、あげるときに必ず火を通せば腰が抜けるといった危険性はありません。
では、なぜそのように言われるのか理由を見ていきましょう。
イカにはビタミンB1(チアミン)を分解する「チアミナーゼ」が含まれている
生のイカには、ビタミンB1(チアミン)を分解する酵素「チアミナーゼ」が多く含まれています。(※)
ビタミンB1は猫にとって重要な栄養素であり、人よりも多く必要とする成分です。
※新鮮な生イカにはチアミナーゼが少ないとも言われている。
ビタミンB1の働き
- 糖質の代謝を促す
- 神経系の正常な働きを助ける
- 疲労回復効果
- 筋肉や心臓の機能を正常に保つ
糖質をエネルギーに変えるときに重要な役割を果たすのがビタミンB1です。
猫は本来肉食ですので、肉や魚などに含まれるたんぱく質をエネルギーに変えるのは得意ですが、糖質(炭水化物)をエネルギー源とするのはあまり得意ではありません。
しかし、市販のキャットフードのなかには、小麦やとうもろこしなどの炭水化物が主原料のものもたくさんあります。
こうしたフードの場合、糖質(炭水化物)を効率よくエネルギーに変えるために、ビタミンB1をあわせてしっかりとる必要があります。
ビタミンB1が不足すると後ろ足のふらつきや麻痺が起こる
ビタミンB1が不足すると「ビタミンB欠乏症」を引き起こし、猫の体にさまざまな症状が表れます。
- 食欲不振
- 嘔吐
- 体重の減少
【重症化すると】
- けいれん
- まっすぐ歩けなくなる
- 視力障害が出る
症状が進行してくると、けいれんやふらつきなどの神経症状が出てきます。
このように、生のイカを食べるとまっすぐに歩くことすらできなくなることから「猫にスルメをあげると腰が抜ける」という風説が生まれたと言われています。
イカの水揚げが多い漁港などに居ついている猫に漁師さんが余ったイカなどを与えていたところ、このような症状が見られ、以来「イカを食べると猫が腰を抜かす」ということになったようです。
つまり、毎日大量に食べていると起こる症状で、ある意味地方病と言えるでしょう。
加熱処理したスルメにはチアミナーゼは含まれていない
チアミナーゼは熱に弱く、加熱すればその効力を失います。
言い換えると、与えるときにしっかり火を通せば、ビタミンB1を分解してしまうことはなく猫の腰が抜ける心配もないのです。
※スルメは生のイカを乾燥させた加工品ですが、基本的には天日干しで加熱処理はされていません。ただし、加工時間を短縮するために温風を使っていることもあります。
- 生のイカにはビタミンB1を破壊してしまう成分が入っているんですねぇ。でもしっかり火を通せば大丈夫ですよぉ。
- 腰が抜けるって聞いて不安だったんですっ。ときどきおかあさんの見てないスキにスルメかじってて。。( ´艸`)ナイショですよ!
スルメの成分
イカを乾燥させて作られたスルメは、イカの栄養がぎゅっと凝縮されています。
ここでは、スルメの栄養成分について見ていきましょう。
成分名 | 値(100gあたり) |
水分 | 20.2g |
たんぱく質 | 69.2g |
脂質 | 4.3g |
炭水化物 | 0.4g |
灰分 | 5.9g |
ナトリウム | 890mg |
カリウム | 1100mg |
カルシウム | 43mg |
マグネシウム | 170mg |
リン | 1100mg |
鉄 | 0.8mg |
亜鉛 | 5.4mg |
銅 | 0.99mg |
マンガン | 0.06mg |
ビタミンA | 22µg |
ビタミンE | 4.4mg |
ビタミンB1 | 0.10mg |
ビタミンB2 | 0.10mg |
ナイアシン | 14.1mg |
ビタミンB6 | 0.34mg |
ビタミンB12 | 12.3mg |
葉酸 | 11µg |
パントテン酸 | 1.57mg |
飽和脂肪酸 | 0.60g |
一価不飽和脂肪酸 | 0.12g |
多価不飽和脂肪酸 | 0.89g |
コレステロール | 980mg |
食塩 | 2.3g |
スルメの栄養は約7割がたんぱく質です。
たんぱく質は猫の体を作る基本成分で、エネルギー源にもなる大切な栄養です。
スルメに含まれる動物性たんぱく質には、猫が体内で作り出せない必須アミノ酸「タウリン」も豊富に含まれています。
関連記事:猫に必要なたんぱく質の種類
スルメの猫への影響と注意点
スルメはしっかり加熱して与えれば「腰が抜ける」などの危険性もなく、むしろ猫に嬉しい栄養が詰まった食べ物と言えます。
しかし、だからといって欲しがるままに与えていい食べ物ではありません。
ここでは、スルメの猫への影響と与えるときの注意点について説明します。
スルメの猫への影響
スルメを与えすぎると、猫にさまざまな影響を及ぼします。
- 塩分過多になる
- 胃腸内で膨張し、嘔吐を引き起こす
- 尿路結石を引き起こす
塩分過多になる
スルメには一般的に100gあたり2~3g程度の食塩が含まれています。
猫が1日に必要とする塩分量は3g程度。
キャットフードやおやつにも塩分は含まれるので、猫が1度に100gものスルメを食べてしまったらあっという間に塩分過多になってしまいます。
健康な猫であれば過剰な塩分は尿として排出されるので心配いりませんが、腎臓病や心臓病の猫にとっては体への負担が大きく、症状を悪化させてしまいかねません。
また子猫の場合、塩分のとりすぎが命にかかわることもあるため、1度に大量のスルメを与えないことが大切です。
胃腸内で膨張し、嘔吐を引き起こす
スルメは乾物なので、胃腸の水分を吸って膨らむ性質があります。
猫は食べ物を噛んで細かくする「臼歯」があまり発達していないため、飲み込める大きさのスルメであれば噛まずに飲み込んでしまいます。
食べたときよりも大きく膨らんだスルメは、胃腸を圧迫し嘔吐を引き起こします。
さらに、血管まで圧迫されると全身の血のめぐりが悪くなり「急性胃拡張」になる危険性もあります。
最悪の場合、呼吸困難となり命にかかわりますので、与える場合は必ず細かくちぎってあげることが大切です。
尿路結石を引き起こす
スルメにはカルシウム、リン、マグネシウムなどのミネラル成分が豊富に含まれていますが、なかでもリンの含有量が非常に多いことが分かります。
- カルシウム 43mg
- リン 1100mg
- マグネシウム 170mg
カルシウム、リン、マグネシウムのバランスが悪かったり、過剰摂取すると尿路結石ができやすくなります。
理想的なバランスは カルシウム:リン:マグネシウム= 1.2:1:0.08と言われていますが、スルメのミネラルバランスはカルシウム:リン:マグネシウム=0.04:1:0.15と大きく崩れています。
与えるときの注意点
- 少量を与える
- 毎日与えない
- 細かくくだく
- 必ず火を通す
1度に大量に与えたり、毎日定期的に与えたりすると、猫の体に負担がかかってしまいます。
与える際は必ず少量にし、おやつやご褒美としてときどき与える程度にしておきましょう。
また、胃腸内で水分を吸って膨らむため、細かく砕いてあげることも大切です。
与える前に火を通すのは絶対に忘れずに!
- ワレワレ猫はデリケートな生き物なんですよぉ。スルメもお魚も食べたいけれど、あんまり食べ過ぎると体によくないんですねぇ。
- し、しらなかったです…!おかあさんたちが食べてるものはおいしそうなものが多いので、ついつまみ食いしたくなるけど、あんまり食べると危険なんですね。。。
スルメを食べてしまったときの対処法
「知らぬ間に猫が大量のスルメを食べてしまったかも!」
そんな時の対処法について説明していきます。
少量であれば、嘔吐や食欲低下などがないか様子を見る
まずは、どのくらい食べたかを把握します。
少量であれば、嘔吐や食欲の低下がないかしばらく様子を見てみましょう。
異変があった場合はすぐに病院へ連れていくことが大切です。
大量もしくは食べた量が分からない場合は獣医に相談
「与えていないスルメを大量に食べていた」もしくは「食べた量がまったくわからない」場合は、すぐに獣医さんに相談しましょう。
特に体の小さな子猫の場合、スルメの塩分が致死量となることもありますので注意が必要です。
自己判断で吐かせるのは禁物
猫の体には自己防衛本能があって、体に毒なものは体外に排出されるようにできています。
自己判断で無理やり吐かせてしまうと、本来吐くことができたものが余計に詰まってしまう可能性もあります。
そのため、必ず獣医さんの指示に従うことが大切です。
まとめ
スルメは加熱して与えれば「猫の腰が抜ける」などということはありません。
しかし、与え方によっては猫の体に負担がかかるため注意してあげるようにしてください。
- スルメはイカの内臓を取り除いて乾燥させた加工品
- 原料のイカにはビタミンB1を分解するチアミナーゼが含まれている
- ビタミンB1は糖質の代謝を促すビタミンで、猫にとって重要な栄養素
- ビタミンB1不足はビタミンB欠乏症を引き起こす
- 重症化すると神経症状を引き起こしまっすぐ歩けなくなる←スルメを食べると腰が抜けると言われる由縁
- 加熱すればチアミナーゼの効力はなくなるため、必ず火を通して与える
- 塩分過多で命にかかわる場合もあるため与える量には注意
- 胃腸内で膨張し嘔吐を引き起こす危険性もある
- 消化不良で下痢を引き起こすこともある
- リンが多く尿路結石になる可能性もある
- 少量、細かく、加熱するのがポイント!おやつにときどき与える程度に
- 知らぬ間に食べてしまった場合はまず食べた量を確認
- 少量であれば様子を見る、少しでも異変を感じたらすぐに病院へ
- 大量に食べていた場合や量が分からないときは必ず獣医さんに相談を
- 決して自己判断で吐かせてはならない
- この記事を書いた人
中野春菜
猫ねこ部編集室 ライター