捕獲器は猫の安全性を重視
先ほども少し触れたように、捕獲器の大きさや種類はさまざま。現在保有している捕獲器は13台、すべてナンバリングして管理しているそう。
使いやすさは人それぞれかもしれないけれど、踏み板式を使っているのは猫にとっての安全面を考えてのことだとか。
踏み板式
参照:Amazon
今使っているのはこのタイプ。キャリーと捕獲器をぴっちりつければスムーズに移し替えられるそう。
吊り下げ式
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餌をフックに刺して使うタイプ。中で猫が暴れた時に吊り下がっているフックで怪我をする可能性も…。
踏み板バネロック
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バネと二重ロックの力で入り口の扉が自動で閉まるタイプ。確実さはあるけれど、捕獲後そのまま保護になるケースではキャリーに移し替える必要があるため、その際の移し替えがネック。
またサイズが大きすぎると子猫の場合、踏み板をふんでも入り口の扉が降りないこともあるのでその点には注意が必要だとか。
出産時期のメス猫の保護にはリスクが伴う
(写真提供:ねこねっと山中湖副代表・保科さん)
7月のねこねっと山中湖のTNR数は8匹。多い時にはひと月で30~40匹ものTNRを行うこともあるそうだが、先月は少なめ。
数が少ないのには理由がある。というのも、この時期のメス猫の保護にはリスクが伴うからなのだとか。
春先から夏にかけてのこの時期は妊娠中や授乳中の母猫がわんさかいる。
「この時期、特にメス猫の保護のリスクというのがあって。授乳中のお母さん猫を捕まえてしまうと子猫たちが死んでしまうんですよ。通常は手術当日一泊して翌日リリースなんですけど、そういった猫の場合には、麻酔を早く覚ますお注射を打って赤ちゃんがいるであろう元いた場所に早めにリリースします。子猫たちが低血糖になるリミットは12時間。その間にお母さん猫を戻せば子猫たちの命はちゃんと繋がるので。」
いつでも妊娠可能な5~10月は特に神経を使うという。餌やりさんから「先月子供を産んだんだよ」など確実な情報があればいいけれど、そういった情報がないエリアの場合は、見極めが難しい。特に若い子の場合はオスかメスかもぱっと見で分からないことも多い。
「捕獲したあとはそのエリアに子猫がいないかをしっかり見ますね。決して子猫たちを殺すために、猫の数を減らすためにやっているわけではないので。捕獲した子たちの命の質を向上させる、そしてそれ以上増えないためにTNRをするんです。」
Neuter(不妊手術)
ねこねっと山中湖では、捕獲後その都度メンバーが病院へ搬送したり、相模原にあるふー動物病院の出張分院(月1回)の際にまとめて不妊手術をしてもらっている。
避妊・去勢手術ともに全身麻酔をかけて行うので、術後は安静のために捕獲器で1泊。不妊手術を行った目印として、耳先をさくらの花びらのようにV字カットされる。「さくらねこ」と呼ばれるのはこのことから。
(写真提供:ねこねっと山中湖副代表・保科さん)
「もっと早く手術すればよかったっておっしゃる方が結構いらっしゃいます。性格も男の子の場合本当に穏やかになりますし、尿臭も3分の1に。オス特有、メス特有の病気を予防できるというのもあります。」
また、繁殖行動によるストレスがゼロになるというのも大きなメリットのひとつ。外で暮らす猫の交通事故の原因は、繁殖行動が大きく関係しているという。
「発情したメスを追いかけてオスが道路に飛び出して車に轢かれたり、一匹のメスを争ってオス同士が喧嘩して追いかけている途中で。。。とか。基本的に猫は、ご飯さえあれば安全なところでまったり暮らす省エネ動物。TNRをすることによって余計なエネルギーを使わずに済むわけなんです。」
さくらねこ無料不妊手術
少しでも多くの猫に不妊手術を施せるよう、公益財団法人どうぶつ基金では「さくらねこ無料不妊手術事業」を行っている。一般枠、行政枠、団体枠などそれぞれの枠から登録、申請をすることで、全国の協力病院で無料で不妊手術が受けられるチケットをもらえるという仕組み。
ねこねっと山中湖では、昨年度TNR196件中、チケット利用が103件。
ただ、本年度の予算を使い果たしてしまったらその時点で助成は終わり。。。全国のボランティアから多くの申請がきていて通年での助成が難しいのが現状だ。
今年度配布の無料不妊手術チケットはすでに4~11月で終了予定となっている。
チケットがなくなる12月~3月の間にも手術を行えるよう、年間を通して資金計画を立てているそう。
※現在、どうぶつ基金では無料不妊手術の助成期間を延長すべく、クラウドファンディングにて寄附を募っている。
https://readyfor.jp/projects/doubutukikin-sakuraneko
Return(元の場所に戻す)
(写真提供:ねこねっと山中湖副代表・保科さん)
TNRでとても大切なのは、必ず猫を元の場所に戻し、しっかりと餌やりをしていくこと。
「自分の敷地の中で餌やりをするのであれば全く問題はないんですね。もし、近所の方で餌をあげていることに文句を言うような人がいたら、『この子たちは手術をしてます、私はできることをちゃんとやってます』とアピールしてください。私はこれだけやってますっていうことを周りに見せずに、ご飯あげて何が悪い!って言ってしまうと喧嘩になるだろうけれど…。」
決まった場所で、決まった時間に引き続きしっかりご飯をあげる。
キレイ好きな猫のために、餌場とは別にトイレを作ってあげる。
一代限りの命を見守るために、餌やりさんにはこうアドバイスをするのだとか。
「結局餌をあげなかったら猫は移動するだけなんですよ。根本的な解決には全くならない。
猫の手術をしますと言うとそのまま連れていってくれ、などとよく言われるんですけど、連れていけばまた他の場所から猫は来ます。そこに猫達がいれば、自分のテリトリーではないので他の猫は入ってこないんです。他の場所にリリースしたら、それはたぶん遺棄と同じことになってしまうので…。
その場所にたくさん猫がいるということは、その中に猫社会があるということ。自分の周りから猫がいなくなればそれで解決と思う人もいるんですが、それはあなたにとっての解決でしかなく、その問題が他の場所に繰り越されただけだと思います。他の場所で種を巻いてまたそこで増えてしまう…。
地域全体で考えなければいけないですし、そこを行政がもう少し啓蒙して動いてもらえるようになると変わってくるのかもしれません。」
不幸な子が生まれないように
▲2匹ともスイッチ切れ^^
「猫の自然の摂理に反する、とTNRに反対する人がいるのも分かってはいますけど、だからといってTNRをしなければ猫は爆発的に増えてしまいます。子猫の場合は本当に亡くなってしまう子が多い…。亡くなるために生まれてくるのはどうなんでしょう。。。」
TNRはあくまでも不幸な子が生まれないようにするための方法であって、決して猫を減らすためにやっているわけではない。
簡単に犬猫が買えてしまうという問題をクリアできなければ、根本的な解決には至らないのかもしれないけれど・・・。ただ、私たち人間にできることは、不幸な犬猫をなくし、一代限りの命が全うできるように手を差し伸べてあげることなのではないかと思う。
ねこねっと山中湖
公式サイト:https://www.nekonetyamanakako.org/
支援物資ご購入のお願い:ねこねっと山中湖 ご支援お願い物資リスト
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- この記事を書いた人
守重美和
猫ねこ部編集室 編集&ライター保護猫団体の活動を仔細にお届けする「保護猫のわ」・飼い主さんと猫との幸せエピソードをお届けする「なないろ猫物語」の編集担当。
猫を通して「人」の姿にフォーカスした記事をお届けする猫メンタリーライターとして 猫好きシンガーソングライター・嘉門タツオさんへのインタビューをはじめ、街の看板猫、猫カフェ、猫が住める住宅からキャットフードメーカー、ペット防災の専門家、猫雑貨店、猫をモチーフした漫画家さん、年間3000件ものTNRの不妊手術を行っている獣医に至るまで、半年間で約40名以上の猫と関わる方々に幅広く取材を重ねる。